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浦和地方裁判所 平成6年(ワ)1513号 判決

原告

宮嵜博臣(X) (ほか一〇名)

右原告ら訴訟代理人弁護士

金〓和夫

中村明夫

金〓和夫訴訟代理人弁護士

石川滋彦

被告

埼玉県(Y)

右代表者知事

土屋義彦

右訴訟代理人弁護士

鍛治勉

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  争点1について

1  本件各住宅が被告の普通財産であることは、当事者間に争いがない。

そして、地方自治法上、普通財産については、貸し付け等私法契約の対象とされ、又はこれに私権を設定することが認められており(同法二三八条の五)、他方、行政財産と異なり(同条の四第五項)、借地借家法の適用が排除されていないことは、原告らの主張するとおりである。

しかしながら、同法は、地方公共団体が私人に普通財産の利用を認めるに際して、常に賃貸借契約等の私法契約の対象とすべきことを定めたものではない。地方公共団体が、その所有する普通財産の利用を民法、借地借家法等の一般私法の法的規制に全面的に服させる態様で認めるか、あるいは、行政財産と同様にこれらの適用を排除する態様で認めるかは、他の法令に反しない範囲で自由に定めることができるものと解される。

そして、その利用関係が、右のうちいずれであるかは、その利用の用途、目的、利用形態、利用に当たって利用者との間で交わされた約定等を総合考慮して決すべきものである。

ただし、地方公共団体の意思、約定の形式に係わらず、その実態が賃貸借契約であると認められる場合に、貸主たる地方公共団体の一方的意思により借地借家法の適用を排除することが許されないことはいうまでもない。

そこで、本件において、被告が本件各住宅の利用を認めるに際し、借地借家法等一般私法の全面的適用を排除する意思であったか否か、併せて、その実態が賃貸借契約関係であると認められるか否かにつき検討する。

2(一)  本件各住宅は、埼玉県教育局及び県立の学校その他教育機関に勤務する職員の福利厚生の用に供する施設として、被告が設置し、訴外教育委員会が被告から委任を受けて、管理規則及び同規則二六条の規定により教育長が定めた埼玉県教職員住宅管理規則施行細目(以下「施行細目」という。)に基づき管理している(〔証拠略〕)。

(二)  本件各住宅の入居者の資格としては、世帯用、単身者用住宅とも、教職員のうち、原則として現に住宅に困窮していることが明らかなものとされさており(管理規則四条)、入居の手続は、入居しようとする教職員が入居承認申請書を所属長を通じて教育長に提出し(同五条)、教育長は、生活困窮度により入居の順位を定め、入居可能な住宅があるときは、その順位に従い承認しなければならず、右承認がなされたときは、住宅名、指定入居日、貸付料、同居者を記載した教職員住宅入居承認書が入居資格者に交付され(同七条)、入居資格者は、指定入居日から一〇日以内に入居しなければならず、入居期限までに入居しないときは、その承認を取り消されることがあり(同八条)、入居者は、直ちに教職員である保証人一名と連署した管理規則の規定を遵守することを誓約する旨記載された県教育委員会教育長宛の誓約書を提出し(同九条)、また、同居の親族に異動を生じた場合は、一四日以内に同居者異動届を教育長に提出する義務があり、(同一一条)、教育長は、貸付料を三月以上滞納したとき、教職員住宅を廃止または建替えの必要が生じたときは、当該入居者に対し、教職員住宅の明渡しを請求することができ(同一八条)、また、入居者が死亡又は教職員でなくなったとき、あるいは入居者の資格を失ったときは、三〇日以内に教職員住宅を明け渡さなければならないものとされている(同一九条)(〔証拠略〕)。

(三)  貸付料は、指定入居日から明渡しの日まで、毎月末日までに納入しなければならず、その額は、教育長が埼玉県職員住宅及び職員管理規則一四条の規定により知事が定める貸付料の額との均衡を考慮して定めることとされており(同二二条)、具体的には、住宅の延べ面積により五段階に区分けされた一平方メートル当たりの基準貸付料の額に構造(木造、非木造)別の経過年数による調整を経て算出されることになっている(施行細目7)。管理規則及び施行細目上、貸付料の改定に関する明文の規定は存在しないが、従前から管理規則及び施行細目に従って、その改定が実施されてきた(〔証拠略〕)。

(四)  本件各住宅の貸付料を、その構造、面積、立地条件、築後年数等で同等の民間賃貸住宅と比較すると、その金額は、民間の貸付料の数分の一程度と認められる(〔証拠略〕)。

(五)  本件各住宅の入居者は、入居に当たり、被告から管理規則その他利用上の注意が記載された「入居者のしおり」を交付されており、これにより貸付料の決定方式が了知されている(〔証拠略〕)。

3  以上の認定のとおり、本件各住宅は、教職員の福利厚生という目的で設置された施設てあって、その入居者資格は極めて限定されており、入居後であっても入居者資格を失えば直ちに明け渡さなければならないものとされていること、入居者死亡による相続が認められていないこと、管理規則上、貸付料は教育長が一方的に決定することになっており、入居者がその決定に関与する余地はなく(もっとも、〔証拠略〕によると、貸付料の改定については、従前より組合交渉の対象となってきたことが窺われるが、組合もしくは入居者の合意が得られなければ改定できないという取扱いになっていたとは認めれない。)、他方、その金額は民間の賃貸住宅の賃料に対比して著しく低額に抑えられていること、入居者は、管理規則上右のような利用上の制約があることを了承して本件各住宅に入居し、そのうえで、これに従う旨の誓約書を提出していることなどの諸事実に照らせば、被告においては、本件各住宅の利用関係につき、民法、借地借家法等一般私法の適用を全面的に認める趣旨ではなく、そのうち貸付料の改定を含む管理規則上の制約に反する限度においては、これを排除する意思であったと認めるのが相当であり、また、右各利用形態、入居に当たっての約定並びに貸付料額からすれば、その実態は、教職員の福利厚生という行政目的達成のために認められた特殊な利用関係であり、私法上の単なる賃貸借契約関係とは同視できないものといわざるをえない。

したがって、本件貸付料の変更に入居者との合意を要する旨の原告らの主張は採用することができない。

二  争点2について

1(一)  国家公務員宿舎法施行令の改正により、平成四年六月一日から国家公務員宿舎の基準使用料が五年ぶりに平均一八・五パーセント引き上げられ、これに伴い、一〇月一日から埼玉県職員住宅(教職員住宅を除く。)の貸付料が平均一五・六パーセント引き上げられた(〔証拠略〕)。

訴外教育委員会は、埼玉県職員住宅の貸付料が引き上げられたことに伴い、管理規則二二条二項に基づき、これとの均衡を考慮して施行細目7を改定し、本件各住宅を含む教職員住宅の貸付料を平均一七・一パーセント増額し、本件各住宅については別紙入居者貸付料等一覧表記載のとおりに決定して、同年一二月一日付で各入居者に通知した(〔証拠略〕)。

(二)  国家公務員宿舎及び本件各住宅を含む教職員住宅のそれぞれの貸付料算定方式は、ほぼ同様の方式であるところ、住宅の延べ面積により区分けされた一平方メートル当たりの基準貸付料の額については双方同額であるが、経過年数による調整の仕方に一部異なる部分があるために、本件改定により、別紙埼玉県教職員住宅貸付料一覧のとおり、住宅によっては前者より後者の方が割高になる場合が生じた(〔証拠略〕)。

2  原告らは、教職員住宅の貸付料の増額が国家公務員宿舎の貸付料の増額に連動するのであれば、改正された前者の貸付料のうち後者の算定方式により算出した金額を超える部分については違法となる旨主張するが、教職員住宅の貸付料の算定方式及び金額が国家公務員住宅の貸付料の算定方式及び金額と完全に同一でなければならない法理は存在しない。

被告がその所有する住宅の貸付料の算定に際して、国家公務員宿舎の算定方式を参考とするか否か、参考にするとして、どの部分を採用し、どの部分を不採用とするかは、原則として被告(教育長)の自由な裁量に委ねられているものであり、ただ、教職員の福利厚生の目的そのものに反するといえる程度の増額、あるいは、従前の貸付料の額に対比して、一般法原則(信義則違反、権利濫用の法理等)に反するような内容の変更である場合に、裁量件の逸脱等の問題が生じる余地がありうるにすぎないものと解すべきである。

そして、これを本件改定についてみると、前示の程度の改定率は、被告(教育長)の裁量権の範囲内に含まれるというべく、これをもって違法不当ということはできない。

したがって、原告らの右主張も理由がない。

三  右検討によれば、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前島勝三 裁判官 川島貴志郎 小川理佳)

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